「なんとなく気分が晴れない日が続く」「特に理由はないのに、不安を感じる」——誰にでもあることだと思います。そしてそんなとき、「メンタルが弱っているな」と考える方は少なくないのではないでしょうか。
でも、もしその原因が「お腹の中」にあるとしたら、どうでしょう。
今日は、腸とメンタルのつながりについて。知ると、ちょっと世界の見え方が変わる話です。
セロトニンの約90%は、腸で作られている
「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニン。気分を安定させ、不安を和らげ、睡眠リズムを整える——メンタルにとって非常に重要な神経伝達物質です。
このセロトニン、脳で作られていると思っていませんか。
実は約90%は腸で産生されています。正確に言うと、腸の粘膜にある「腸クロム親和性細胞」というところで作られています。腸は消化器官であると同時に、からだ最大のセロトニン工場なんです。
つまり、腸内環境のバランスが崩れると、セロトニンの産生にも影響が出る可能性がある。「気分の落ち込み」の原因が、実は腸から来ている——腸とこころのつながりは、思っている以上に深いものです。
腸と脳は「電話回線」でつながっている?
腸と脳のつながりを説明する仕組みとして「腸脳軸(gut-brain axis)」というものがあります。腸と脳が迷走神経などを介して常に情報を交換し合っている回路です。
2025年にScienceDirect(世界最大級の学術論文データベースサイト)に掲載された包括的レビューでは、腸内細菌(マイクロバイオータ)が食事成分・プレバイオティクス※1・プロバイオティクス※2の影響を受けながら、中枢(脳内)と末梢(腸など体内)の両方のセロトニン機能を調節していることが報告されています。
要するに、腸内細菌のバランスが良ければセロトニンの産生も安定しやすい。逆に腸内環境が乱れると、セロトニンの産生が不安定になり、気分にも影響が出やすくなるということです。
「腸とメンタルが関係しているらしい」とはよく聞きますが、こうした研究を見る限り、単なる噂ではなさそうです。
※1…腸内にいる菌のエサとなる成分
※2…適正な量を摂取したときに、ヒトの体に有益な作用をもたらす生きた微生物
腸内環境を整えることが、メンタルのケアにもなる
この話の面白いところは、「腸内環境を整える=メンタルのケアにもなりうる」という視点が生まれることです。
気分が落ち込んだとき、「考え方を変えよう」「ポジティブに」と自分に言い聞かせる。それも大切ですが、それだけではうまくいかないことがある。なぜなら、セロトニンの材料(後述するトリプトファンなど)が不足していたり、腸内環境が乱れていたりすると、そもそも「気分を安定させるための材料」がからだの中で足りていない可能性があるからです。
だからこそ、メンタルを直接どうにかしようとする前に、腸内環境を整えるという入口がある。発酵食品や食物繊維を日常的に取り入れること。腸にとってマイナスになりやすいもの(精製砂糖・人工甘味料・保存料など)を減らすこと。こうした小さな積み重ねが、実はメンタルの土台を支える可能性があります。
今日からできることとして、朝食に味噌汁や納豆など発酵食品を一品加えてみる、おやつを食物繊維や発酵成分を含むものに替えてみる、というところから始めてみてはいかがでしょうか。大きな変化ではなく、小さな選択の積み重ねが腸を、そしてこころの根っこを少しずつ整えてくれるはずです。
腸からメンタルへの影響ポイント
- ①腸内環境のバランス
→セロトニン産生の安定性に影響
- ②腸内細菌
→トリプトファン代謝※3に関与→セロトニン合成に影響
- ③腸の炎症
→迷走神経を介して脳のストレス応答を過剰にする→腸を整えることが、間接的にメンタルの安定をサポートする可能性がある
※3…必須アミノ酸の一種であるトリプトファンが分解され、さまざまな生理活性物質へ変換される生体内の化学反応のプロセス
「こころの問題」だと思っていたことの入口が、
実はお腹の中にあるかもしれない。
腸を整えることは、メンタルへの投資でもある。